全米一公害で汚染された川があったオレゴン州・ポートランド。それがいまでは環境先進都市として注目を集め、数々のクリエイターが住み着いています。ポートランド市開発局の山崎満広 氏が、街づくりと街を変えた市民の当事者意識について語ります。
Words / Photography: Freedom University
Photography (Cover, Portland): Tomohiro Mazawa
世界中で現在、いかに市民を巻き込み、創造的に都市を組立てて行くのか、という課題が行政や企業にあります。消費社会の次にくる“新しい都市像”をどのように描いて行くのか? クリエイティブクラスをどのように集めて行くのか? それは、ヒューマンで個人が活かされるコミュニティをどのように形成するかに懸かっています。表参道COMMUNE246内にあり、既成概念に囚われない学びの場をつくっている自由大学。2015年10月28-29日にポートランドのまちづくりから学ぶ「Creative City Labー創造的都市をどう作って行くのか」という講義を2日間、全5回で開催しました。
ここでは、第3回にURも協賛して開催した公開討論会「Creative City Session from UR〜クリエイティブな街を生み出すものは何か」についてレポートします。その他も世界的建築家で、2017年オープン予定の「ポートランド日本庭園」を手がけた隈研吾氏と、自由大学創立者でCOMMUNE 246のプロデュースを行う黒崎輝男氏による公開討論を開催。山崎氏による「ポートランドの都市計画」、林氏による「次世代につづく価値のつくりかた〜リノベーション」についての講義も展開。最終回は、山崎氏の主導のもとポートランドで実際に行われているまちづくりのワークショップをPLACE(http://place.la/)のアーバンデザイナーのチームと共に実践しました。
山崎満広
オレゴン州ポートランド市開発局 国際事業開発オフィサー。1975年東京生まれ。95年に渡米し、南ミシシッピ大学にて学士と修士号を取得。専攻は国際関係学と経済開発。建設会社やコンサルティング会社、政府系経済開発機関等へ勤務し、全米各地の政府機関とのやり取りを通して、企業誘致、貿易開発や街づくりを現場で学ぶ。2008年頃、コンサルタントとして環境保全と経済開発の両立を考え始め、プロジェクトで何度か足を運んだポートランドに興味を持ち始める。「この町なら経済開発に携わりながら、環境にやさしい生活が出来るかもしれない。」と思い転職を決意。2012年3月より現職。
関連サイト:We Build Green Cities
関連サイト:We Build Green Cities
■1:まちづくりは長期的なスパンで考える
山崎氏から最初に紹介されたキーワードが「RATE OF CHANGE(物事の変化率)」でした。
「fashion(流行)→ commerce(商業)→ infrastructure(基本的施設)→ governance(統治)→ culture(文化)→ nature(自然)」
の順番で右にいくに従って、長期的なスパンでものごとを捉える必要があるという考え方です。例えば、ファッションは3ヶ月ごと、季節に合わせて着るものやトレンドが変わります。ビジネスは1年単位で決算を行います。社会的なインフラは5〜10年単位、そして行政のように大きな事をマネジメントする場合は20〜30年単位で取り組む必要があります。一方で、日本で行政のまちづくり担当者が3年で人事異動になってしまうような現状もあることに対し「まちづくりに本気で取り組むのであれば、もっと腰を据えて取り組む仕組みや予算の確保が必要なのでは?」と提案されました。
生活習慣の積み重ねで醸成された文化や、何万年という時間を経て育まれた自然環境を短期的なスパンで考えて簡単に壊してしまっては取り返しのつかないことになる。このような考えをポートランドの人々は理解し、共有しています。近年、ポートランドは環境先進都市として注目を浴びていますが、1970年代は全米一公害で汚染された川がある街でした。市民が当事者意識を持ち、本当に住みやすい街にしようと行動し続けた結果、40年かけて今の姿になったのだと山崎氏は語ります。
山崎氏(右)とUR・三井禎幸氏(左)、東京R不動産ディレクター・林厚見氏(中央)
■2:市民も含めた「ジョイント・ベンチャー形式」でつくる街
また、山崎氏によれば、ポートランドでは、市の担当局から任命されたネイバーフッド・アソシエーションと呼ばれる、ローカルコミュニティの団体が市内に95もあります。日々の生活循環から地域の課題を自分たちで解決し、より良いまちづくりのために、フラットな組織として機能しています。市はそのような組織で活躍する人材のトレーニングも行っているそうです。
まちづくりは往々にして行政、ディベロッパー、市民の目標がずれてしまう場合があります。PDCはアーバンデザイナーというハードとソフトの両面からまちづくりを考えられる専門職の人たちと協業し、参画者と価値の共有化を図りながら、街にとってのベストを導きます。様々な立場の誰もがリーダーシップをとれる「ジョイント・ベンチャー形式」で、皆が同じリスクを背負ってやっていくのがポートランド流なのです。
山崎氏の主導のもとポートランドで実際に行われているまちづくりのワークショップをPLACE(http://place.la/)のアーバンデザイナーのチームと共に実践
■3:地元や自然を愛するポートランド的価値観が、イノベーションを生み出す
PDC職員は本気で街を良くしよう、と地元愛に溢れる人たちばかり。生活循環からも地元経済を活性化しようと「アメリカ産コットンで作られた、地元の職人がつくったシャツしか着ない!」という人がいるほどです。人口60万人ほどの地方都市に、ナイキ、コロンビアなどの地元企業をはじめ、企業誘致を行っていないにも関わらず、世界中からジャガー・ランドローバー、アディダス、ミズノ、アンダーアーマーなどがポートランドに集まる理由は「考え方が鋭く、自ら答えを切り拓くマインドを持つ人々を惹きつけるライフスタイルがあるから」と山崎氏は言います。
また、都心から1、2時間も車で移動すれば、海や砂漠、積雪のある山などに辿りつくことが可能で「新製品をあらゆる自然環境でテストし、フィードバックを次の日に返せる。そのスピード感がスポーツ産業のイノベーションを促している。」と説明しています。2010年から二酸化炭素の排出量を押さえながら、経済と人口が成長をしており、環境先進都市として注目されることを誇りに思う住民も多いことでしょう。
Creative City Lab from UR〈後編〉
クリエイティブシティを支える「いい加減さ」
山崎満広(ポートランド市開発局) × 林厚見(東京R不動産ディレクター) × 黒崎輝男(COMMUNE 246プロデューサー)
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